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「日本人は先進国イチの怠け者」という記事が何故おかしいか

gendai.ismedia.jp

 週刊現代が書いたこの記事が話題にいなっている。大まかにまとめると、日本の労働生産性はG7の中で最下位なのに、労働時間は短い方だ。働き方改革がどうとかいって労働時間を更に削ったら日本は成長しなくなってしまう。怠けないで猛烈に働かないとダメだ。といった内容である。

 これがトレンドに載った際は、全体的に見て批判的な意見で賑わっていた。当然といえば当然である。先ほどの記事の中でも述べられていた通り、今の日本の風潮として長時間労働や企業戦士といった言葉は忌避されている。そのような風潮に対する疑問を、かつて企業戦士と呼ばれバリバリ働いていた人たちの言葉と共に投げかけるといった内容なのだから、それは批判も湧くだろう。

 今回は、批判的な意見が多く見られたこの記事の内「日本の労働生産性はG7の中で最下位なので、もっと沢山働かないといけない」という問題について出来るだけ平易に何がどうおかしいのかを示して行こうと思う。そもそも労働時間が短いのかといった問題については多く議論されているのでそちらを参照していただきたい。興味がある方は先の記事でも用いられている「データブック国際労働比較」で検索してみると良いのではないかと思う。

 まずは問題を明らかにする事から始めよう。労働生産性関する言説の大きな問題は、これが時代遅れの典型のような主張だという点に尽きる。何が時代遅れなのかを具体的に述べよう。経済成長がある程度達成された国にとって、次の課題は高い生産効率を実現する事だ。しかし、先の記事では労働時間を増やす事で更なる発展を目指している。少子化という問題を自ら上げながらも、それを長時間労働で解決しようという愚かしさは特に目に余る。

 労働生産性は生み出された付加価値を分子に、その付加価値を生産するために投入した労働時間を分母にとる。言うまでもなく、分子を増やすか分母を減らす事で、高い生産性を得られる。逆も然りで、分母が増える=労働時間が増える事は生産性の低下を意味する。

 労働時間が増えれば結果として生産できる付加価値も増えるのではないかと思った人もいるかもしれない。残念ながらそれは正しくない。先ほどの記事を書いた人間や、根性論が好きな人間は頑張れば頑張るほど良いと考えているのではないだろうか。当然間違いである。

 「限界生産力逓減の法則」という物をご存知だろうか。ご存じない方のためにわかりやすい例で考えてみよう。ある人物Aはパン職人で、今日はまだ何もしていない。このまま何もしないわけにもいかないので一時間でパンを7個作った。もう少し作ろうと思いもう一時間パン作りをしたが、若干疲れてきたので今度は5個しか作れなかった。更にもう一時間パンを作る事にした。案外疲れが溜まっていたので今度は3個しか作れなかった。かなり疲れてきたがもう一時間くらい作ろうと思った。もうヘトヘトなので1個しか作れず、これ以上の生産は期待できないのでここでやめた。4時間で16個のパンを生産した。(生産関数は)

 極端な例だがこのまま進もう。これは労働時間が増えるとパン職人が一時間に作れるパンの個数が減っていく様子を表している。このように、追加的に投入した労働量に対して得られる生産量が次第に減少していく事を、「限界生産力逓減の法則」と呼ぶのだ。なぜ作れるパンの個数が一定でないのか。それは労働時間が増えれば増えるほど集中力や体力は減少していくからである。パン作りを勉強や部活の練習などに置き換えても良い。同じ事を何時間も続けていくと次第に効率が低下していく事は経験的に知っているのではないだろうか。

 ここで労働生産性について考えてみよう。一時間だけパンを作った時の労働生産性は7/1=7、二時間パンを作った時は(7+5)/2=6、三時間なら(7+5+3)/3=5、四時間だと(7+5+3+1)/4=4で、労働時間が増えれば増えるほど生産性が下がっている事がわかる。分母の増加量と分子の増加量が一定では無い事が理由である。故に、労働時間をむやみに増やしてしまう事は生産性を低下させる事に等しいと言える。

 では、労働時間を削って高い生産性を維持すれば良いのだろうか。それは明らかに違う。パン職人が一時間だけパンを作ってそれを売っても生きていけない。パン職人は生きていくために生産性が下がる事を承知でパンを作り続けないといけないのだ。国全体の経済も同様で、生産性を上げるために労働時間を削るというのは何の解決にもならない。

 労働時間を増やしても生産性は上がらないが、かといって労働時間を減らすと生産性は上がっても所得は増えない事がわかった。ではどうすればいいのか。

 高い生産性を維持しつつ所得も増やすには、パンの生産効率を上げれば良いのだ。パン職人はある会社から、全自動パンこねマシーンを購入した。(計算がややこしくなるので購入費用は考えない)全自動パンこねマシーンはパンの材料を入れてスイッチを押すと自動でパン生地をこねてくれる。この機械を

導入した結果生産効率は飛躍的に上昇した。パン職人のやる事は基本的にパンを焼くだけである。そのため、パン職人は最初の一時間で15個、次の一時間で13個、更に11個、9個と4時間で計48個のパンを生産でき、労働生産性は48/2=12と先ほどよりも高い。(生産関数は)

 さて、ここまでくれば労働時間を増やせ!バリバリ働け!というのがいかに不毛かわかっていただけただろうか。根本的に、日本が今行うべきは長時間労働ではなく生産効率向上なのである。生産性が低いのだから、沢山働かないといけないという主張はひどい矛盾だ。少ない労働時間で高い生産性を実現する事が停滞する日本経済の打開策になるのである。

 少子高齢化が進んでいるのは周知の事実で、投入できる労働量は減る一方だ。そうなった場合には技術革新によって一人当たりの生産性を高めるより他ない。まして個々人の労働時間を増やして何とかしようとするなど論外甚だしい。

 政府は労働時間の規制といった負の圧力ではなく、技術開発に携わる人材の支援、育成関連の予算増大を以って失われた20年からの脱却を目指してほしいと思う。

 わかりにくい部分、疑問に思った部分があれば是非コメントをしてほしい。私も問題の全容を完璧に理解しているわけではないので、読者の方と共に考えられれば幸いだ。